注目の投稿
- リンクを取得
- ×
- メール
- 他のアプリ
アグレッシブ・ムスリム・ウーマン-オランダのバーにてご対面-
数日前のオランダ、朝の7時。
一寸先は白。霧まみれの世界。
車窓からみえるそんな景色を指して天国みたいと言うツマと地獄みたいと言うボク。
天国のイメージわる、と思いつつも、天国と地獄なんてまだ見たことがないし、自信をもって地獄だと主張できる知識もないし、電車の揺れは心地良いし、朝早くに起きたから眠いしで、結果、天国で運転するならフォグライト点けないとねと、意味不明なアドバイスをすることで強制的に会話を締めくくりました。
人間の感覚はとことん違っているものだなと思い知らされた朝です。
実は先日、そんな個人差という考え方とはあまり結びつきそうにない宗教について、疑問に思った出来事がありました。
ボクがオランダに来てはじめて夜の町に繰り出した日のことです。その日はロッテルダムという町を訪れていました。
ロッテルダムは第二次世界大戦の爆撃によって一度完全に消失しています。そして戦後にすべてを一から再構築したという歴史があるので、オランダのそのほかの地域に比べて近代的・都会的なイメージを有する町です。市内にはファストフード店が多く、特にアパレル店の多さが目をひきます。オランダ人全員ここで服買ってるのかと思えるほど、歩いていると次々にアパレル店が出てきます。
町中をぶらりしていたときに目にしたものを少しだけ載せておきます。
遠近感が狂うほど巨大なマルクトハル |
どうやって持ち運ぶんですかと聞きたくなる 長さの楽器で演奏するパフォーマー |
美声マダム |
なんだろう、ちょっと変な町かもしれません。(そこがいいところなのですが)
本当はもっといろいろと名所があるので、今後さらに開拓を進めてこの町の魅力を伝えることができればいいなと思っております。
そしてこちらが、ボクがオランダに来て初めて訪れたバー、Bar Restaurant Sijf です。
Bar Restaurant Sijf はアウデ・ビネンという通りにあります。その通りにあるお店は、大量消費を狙った店というよりは程よく消費されている感があります。それぞれのお店には常連さんに見える人もちらほら。レンガ作りの建物も多く、「近代的・都会的」とはまた少し異なる様相です。
お店のHPはコチラから。HPからインスタグラムもチェックできます。
そして、このバーでの出来事がのちに「宗教」についてのちょっとした疑問を抱かせることとなります。
店内に入り席に案内され、さあ何を飲もうかとメニューを開いたとき
ヘイヘイようこそー!
何飲む?
ていうか注文は決まった?
まだ?まだっぽいわね。
そこにあるのがメニューよ!
で、何が好き?あなたたち何が好きなの?
一息つく間もなくお姉さん(店員さん)にぐいぐい来られ
ボクは普段お酒をあまり飲まないのでお決まりのお酒があるわけでもなく、「とりあえず生で」と言って後から何杯も飲めるほどお酒に強くもないので、「ちょっと待った!時間をくれ!」とお姉さんには一旦退場してもらうことにします。
ビールを飲もうとだけは決めていたので、メニューを見せながらたずねてみると
ここからここまでぜーんぶビール!
見てほら、2ページ分よ!!
ハッ!ウケる!多くない!?
友達だったっけなこの人。そんな思いが一瞬頭をよぎります。
お酒のことならアタシに任せて!
味とか風味の好みとか言ってくれればアタシがおすすめしてあげっからね!!じゃ!
そしてその一瞬の間にこう言い残してお姉さんは去っていきました。
飲み屋で偶然横にいた人と意気投合して3時間くらい一緒に過ごしたとしてもここまでアグレッシブにはなれないなと、注文そっちのけでボクは感心してしまいました。
結局自分では決めることができなかったので、さっきのお姉さんを呼び、フルーツ感はありつつも苦味強めのビールはあるかと尋ねたところ
コレとコレとコレぇ!!!
とクラブにでもいるのかと思うほど大きい声で3つのビールをおすすめされ
うーん!この3つの中だとちょっと酸味強めだけどコレなんかどう!いける!?
あまりの反応の速さと全身からほとばしるアグレッシブさから、このお姉さん言うだけのことはありそうだ、お酒詳しそうだぞと、すべてお姉さんの言いなりになることにしました。
結局、頼んだビールは果汁生搾りかと思えるほど華やかでおいしく、クリスマスシーズンの店内は賑わっていて楽しく--誰もが大声で、しかもノンストップでしゃべり続けているので賑わいというよりは騒音ですが--アルコールで体は温まり外の寒さが心地よく、とても良い夜を過ごすことができました。
と、ここでこのアグレッシブお姉さん、一体どんな人なのかというと、20代くらいでヒジャブを巻いていたわけなんですね。
ヒジャブというのは、ムスリム(イスラム教を信仰する人たちのこと)の女性が頭を覆うように身につける布のことです。
なぜヒジャブを被るのか。
それは、女性は近親者以外の前では肌の露出を避けなければならないというイスラム教のルールを守るためです。
ただし今回重要なのはそちらのルールではなく、アルコール類の禁止というルールです。イスラム教において、基本的にアルコール類の摂取は禁止行為とみなされています。なかには摂取どころか販売すら禁止している国すらあります。
※旅行者向けにのみ販売が許されているお店があったりもします。
以前カナダに留学していたとき、サウジアラビア人やトルコ人、エジプト人と仲が良く、みそしょうゆソース全部混ぜ合わせ顔みたいな人たちに囲まれて過ごしていたのですが、彼らは全員ムスリムでお酒を飲みませんでした。いつなんどきもライムを刻みながら話すドレッドパイナップルヘアー、通称パイナポーも勢いにまかせてお酒を飲むなんてことはせず、ちゃんとルールを守っていました。
さてここで疑問です。「お酒のことならアタシに任せて!」と言ったお姉さんはムスリムです。果たしてお酒を飲んだことあるのでしょうか。ちなみに、お姉さんを疑っているのではありません。ボクの疑問は「ムスリムってお酒飲んでいいの?」というところ。
あんなに陽気でちゃらんぽらんだったパイナポーですら頑なにお酒は飲もうとせず、イスラムの教えは相当きびしいのだなと感じた日から約7年。ムスリムの女性がお酒を提供するお店で働いているし、あきらかにお酒を飲んだことがあるような振る舞いだったので、気になってしまいました。
そこで調べてみると、ひとえにイスラム教といっても、信仰心の強さやルールのきびしさは国によってもまちまちなのだそうです。特にここ最近は多様化がすすみ、厳格に教えを守るヘビー信者もまだいますが、ライト信者の数も増えているとのこと。たとえば、サウジアラビアをはじめとする中東諸国は国と宗教の結びつきが強くヘビー信者が多いのですが、インドネシアやマレーシアなどの東南アジア地域ではわりとライト信者がいるそうです。
そもそも多様化が進んでいる状況のなか、ヤンチャ系の若者なんかは「なあ、今日はアッラー様出張でいないって聞いたぞ」「まじ?じゃあお酒飲んじゃうか」くらいのライトさでお酒と付き合っているのかもしれません。
ちなみにパイナポーはサウジアラビア出身。
彼は宗教との結びつきが強い国で育ちました。どうりでお酒にかんしてはハメを外さなかったわけです。それ以外は外し放題でしたが。
ところで、日本は無宗教の人が多いと言いますね。ボクは片方の祖父母がキリスト教を信仰していて、彼らにとっては食事の前にみんなでお祈りをするのが当たり前でした。夏休みなんかに帰省すると、聖書は読まないけどもボクもお祈りに参加し、アーメンと唱えてからごはんを食べていました。
当時は宗教がなんなのかも分かっておらず、そもそも宗教という言葉すら知らないような年齢だったので、いただきますってこんな言い方もあるんだ〜と、子どもならではのキテレツ解釈をしていましたね。
ただ、祖父母の家から帰るとそのお祈りは途端に自分の生活からいなくなります。
そして、クリスマスを祝い、サンタを待ちわび、寺にも神社にも行き、バレンタインデーでソワソワし、ハロウィンでトリックorトリートと言わされ、といった具合で、信仰もへったくれもない破茶滅茶な宗教カオスライフを送ります。
このように、特に深く考えることをせず、そこらにあるもの寄ってくるものに何にでも関わってきた無宗教人間のボクからすると、特定の宗教を信仰する人たちは、彼らの信仰心とか行為などになんとなく畏敬の念を抱いてしまい、どこか遠い存在に思えてしまうのです。
しかし今回、アグレッシブお姉さんの一件を機に、なんだライトなところもあるのかと、ちょっとだけ距離が近くなった気がしています。同じ人間なんだなと。お姉さんありがとう。
お姉さんに飲酒歴があるのかどうかは知りません。ただ、自信に満ち溢れたあの接客と、何より「お酒のことならアタシ任せて」というセリフ、飲んべえに違いない。仮にあのお姉さんが一滴もお酒を飲んだことがないとしたら、それはそれで接客業のスペシャリスト。何もわからない一見(いちげん)の客でも安心してお店を楽しめます。
ロッテルダムに訪れた際は、ぜひ一度Bar Restaurant Sijf に足を運んでみてください。アグレッシブお姉さんがグイグイきてくれますよ。
以上、オランダに来て宗教の存在を身近に感じ、勝手に距離をちぢめたお話でした。
- リンクを取得
- ×
- メール
- 他のアプリ
コメント
コメントを投稿